※ちょっとだけ登場人物の名前とか書いたので微ネタバレって書いたけど、本質のネタバレは無いつもりです。
SF小説「三体」のシリーズがずっと気になっていたが、なかなか超長編小説に手をつける余裕が無かった。ある日ふと、Audibleで聴くという手段を思いついた。
Audible版『三体 』 | 劉 慈欣, 立原 透耶[監修], 大森 望, 光吉 さくら, ワン チャイ[訳] | Audible.co.jp
例えば皿洗いしている時、両手は忙しいのだが、実のところ脳ミソは暇である。音楽を聴いたりはもともとしていたので、Audibleで聴くのはありなのでは? と気づき、試してみた。
三体の1巻目は文字媒体で数年前に読み終えていたが、だいぶ忘れていたので、聴き直しから始めた。2月頭から聴き始めて、シリーズ全部を6月中旬に聴き終わったので、大体5ヶ月間の皿洗いタイムを使ったことになる。我ながら地道だな。
シリーズの音声時間は次のとおり。
- 三体 17時間31分
- 三体II 黒暗森林 上 13時間58分
- 三体II 黒暗森林 下 14時間22分
- 三体III 死神永生 上 17時間19分
- 三体III 死神永生 下 17時間51分
合計で81時間1分。逆に、こんなに皿洗いに時間使ってるのか、と思い驚く。まぁ、プラスアルファの家事時間(洗濯、掃除など)と 、続きが気になることに耐えきれなくて電子書籍を購入してうっかり貪り読んでしまったところ(後述)があるので実際のところは正確ではないが、大半を「家事をしながら」物語を楽しんだ。
名前の話(漢字圏間の問題かも)
心配として、原著は中国のお話なので、登場人物の名前に耳馴染みが無いことが気になっていた。三体(1)に「葉文潔」という主要人物がいる。文字として一度読破した時は、脳みその中で自分は彼女を「よう・ぶんけつ」と読んでいて、同時に「葉文潔」という文字の形として認知していたように思う。しかし、Audibleでは「イエ・ウェンジェ」と中国語発音で読み上げられる。三体(1)の序盤では、知っている物語の内容と発音とで大変に脳みそが混乱したが、終盤は慣れることができた。いまとなっては「葉文潔」よりも「イエ・ウェンジェ」のほうがしっくりくる。
三体(2)は(1)の続きの物語だが、主人公が「ルオ・ジー」になる。ここからは完全初見(初聴?)だったので、自分にとって主人公は「ルオ・ジー」(音声)だった。そして、三体(2)の終盤、物語が一気に面白くなってきて、続きが気になりすぎて家事が終わっても聴き終えることができなくなってしまった。聴くよりも読んだほうが早いと判断して電子書籍に切り替え、さあ続きを読むぞと意気込んだ時、目に飛び込んできた文字は「羅輯」だった。 これは主人公「ルオ・ジー」を表現する漢字表記だが、自分の脳みそはそれが「ルオ・ジー」であることをなかなか認識してくれなかった。しばらくは主要登場人物が出るたびに「えっ、あんた誰だっけ…」と思う羽目になり、ページ初めの登場人物一覧が無いと物語の状況がイマイチわからないといった有様になった。この『登場人物の呼び方』問題は、特に漢字圏の別国の小説を読んだときに限定される悩みかもしれないが、Audibleの利用にあたって、面白い体験だった。
三体(3)は文字媒体に立ち返ることなく、完全に音のみで聴き終わったので、混乱することはなかった。とは言え、改めて文字で再読したら「智子(ソフォン/ジーズー)」の印象は若干違ってくるかもしれないなぁと思う。多分本で読んでたら脳内でずっと「ともこ」と呼んでいたし、ソフォン/ジーズーをもう少し同一視して考えていたような気がする。いや、ある意味同一であるが、別モノでもある訳で…‥このあたりの葛藤はすでに読了した方にはお分かりいただけるだろう。訳者あとがき(これも読み上げてくれる!)でも、好きに読んで良いというとのことだったが、Audibleを採用すると自動的にそういう呼び分けが脳みそに染みるんだなぁということがわかった。
ところでウォールフェイサー / ウォールブレイカーは文字媒体だと「面壁者」「破壁人」なんだな。カッコいい最高。
聴き逃すと大変
Audibleで困ったこととして、うっかり別のことを考えていたり、停止に失敗して流しっぱなしにしてしまうなどで聴き逃すと、巻き戻しに苦労するところである。シークバーをカンを頼りに戻して、前聴いたところを探さねばならない。この『続きを探す』行為は、紙の本が一番やりやすく、電子書籍がやや難しいと思っていたが、Audibleが一等難しいと確信した。
紙は視野にバッと前後の内容が見えるので大体パラパラめくっていたら栞が無くても再開箇所を発見できる。電子書籍はやや難しいが、前後の文章をある程度目で追えるのでまぁなんとかなる。ただしAudibleは、数秒間、文章について1〜2フレーズ分を再生して「今を聴いた部分はもう知ってるか?まだ知らないか?」と判断して、またシークバーをずらすということを納得するまで続ける必要がある。また、ピッタリ再開というのはなかなかできないので、大体はもう聴いた部分を1ページ分くらい聴きなおすことになり、少しもどかしさを感じた。
朗読ってすごいな
この凄まじい大長編だが、全てをナレーターの祐仙 勇氏が読み上げている。読み上げているのもそうだが、個々のキャラクターを「演じ分ける」というのがすごかった。ちゃんとそれぞれのセリフが、最初の一語の瞬間に、老若男女それぞれどのキャラクターが発言していたのかがハッキリわかった。
小説の形として、よく、『「…‥」と、〇〇は言った。』という形で後から話者を示す表現があるが、『〇〇は言った。』という読み上げが行われる前に、その口調、間の取り方、息づかいで『〇〇』のセリフだということに事前に気付くことができる。
アニメやらドラマやらだと、演者が違うので当然その声の人物だなと分かるが、お一人で全て読まれる朗読でこういった気付きを得られるということに、大変感動した。ナレーターさんとか声優さんとかって本当にすごいなぁ…‥。
「三体」面白かった
Audibleでの趣味読書という初めての試みだったが、感想としては成功だったなと思っている。充分に「三体」という壮大なSFの世界を楽しむことができた。あとがきでも触れられていたと思うが、正直なところ自分は俗っぽいものも大変好きなので、シリーズの中では三体(2)が一番エンターテイメントとして面白いと感じた。特に銀色の〇〇が……縦列の〇〇を〇〇するところからもう読むのが止まらなくて……。あと一番好きなシーンは三人が顔を見合わせて意思疎通するところ。(本格ネタバレに配慮しつつ読んだ人が見れば分かる表現を目指したらこうなった)
次は何を聴こうかな
「三体」聴いた後はサロメ様の実況音声を皿洗いのお供にしてしまっていたが、聴き放題プランが継続しているので、次は「同志少女よ敵を撃て」でも聴こうかなと思っている。